50 櫃取湿原(1020m){シットリシツゲン}
県=岩手 ノロメキ沢源頭
同行者=石井さん
登山日:1998年6月26日
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Outdoor Style サンデーマウンテン
岩手、田代高原で開催された第十一回「七時雨自然と語らいと森のコンサート」に、初めて参加した帰途に、石井さんから、「このまま帰宅するのでは勿体ない。途中に本には書けない、取って置きの湿原が有るので行って見ないか」と誘われた。時間は充分にあるので地図を広げて途上多少は廻り込みをするが、取って置きの湿原に期待を膨らませ訪れることにした。
車中で、「当時、朝日新聞の日本百選に櫃取湿原が入っていたので、気になって夜行日帰りで奥さんと田中さんと三人で訪れた」そして石井さんの処女出版の『静かな山歩きⅠ』に、「これから訪れる櫃取湿原紀行を載せる、いや載せては駄目だと三人で論争した経緯がある処で地形図に載ってない静寂の中にある湿原である」との石井さん談を聞きながら、盛岡ICで下車してR106号を宮古に向かって走り、区界トンネルを抜けた左に兜明神嶽そして右に早池峰山を仰ぎ見ながら下り、松原の交差点を岩泉方面に村道を、くねくねと登って蓬原峠を越すと景色は一変する。
ダケカンバの純林が見事なもので、このあたり独特の太くて整った林相である。やがて下り切ると、牧棚が現れ前方左には牧夫小屋が見えてきた。三叉路を左折した先に湿原へのゲートと傍には案内板が有った。
蓬原の湿原への入口にある説明版には、以下が記してあった。
昭和五十六年(1981年)に岩手県が指定した「櫃取湿原自然環境保全地域」この地域は、青松葉山の西方ノロメキ沢上流部に位置し、標高約1000mに発達した湿原と、これを囲む落葉広葉樹の老齢林とが良く調和し、北上山地の数少ない湿原の中で、ヒメシダミズギク型を主体にミズバショウを伴う植生組成の中間湿原として代表的なもので、周囲のハクサンシャクナゲ群落と共に、その優れた自然環境は学術的に重要なものです。この湿原の自然環境を適切に保全するために指定した。
■地形・地質
この地域は、東側のノロメキ沢下流部を除く周囲が、暖斜面の湖盆地形をましている。地質は古生界系に属する粘板岩・砂岩・輝緑凝灰岩及びチャートによって構成され、また土壌は湿原の低地部分が有機質に富む湿草地土、その周囲は褐色森林土壌である。
■植生構成
ミズバショウを伴う植生組成が支配的で、周辺には、ハンゴウソウやヤマドリゼンマイが優先し、その外縁にはヤチダモ・ミズナラ・ダケカンバ等の老齢林にハクサンシャクナゲ・チシマサザが出現している。
■野生動物
哺乳類のツキノワグマ。ニホンカモシカ・アナグマの他、ムササビ・テン・モモンガ・ヤマネも生息しており、またクマタカ・フクロウ等の鳥類、両生類、昆虫類の種類も豊富で、周辺の渓流はイワナの宝庫である。
■保全
この地域に置いて、一定規模以上の人工物の行為を行う場合は、その旨をあらかじめ岩泉町を経由し、岩手県知事に届けなければならない。
蓬原の湿原への入口にある説明版
橋を渡って空き地に駐車して、橋の下の流れを静かに覗くとイワナが、川上に向かって泳いでいるのが見える。従弟の釣り好きに紹介したいと頭に過ぎる。
ゲートを抜けて歩き出す。前方のなだらかな稜線を描く高森(1219m)の上から雲が湧きだし飛んでいる。日当たりの良い水辺にネコヤナギが枝を差し伸べ姿を映していた。雪解け水が音もせずにゆったりと流れ、静寂の中にウグイスの谷渡りの囀り、そして遠くで哀愁を誘うカッコウの声。石井さんのおっしゃる、取って置きの看板通りのとても素敵な場所に連れて来て頂いた。石井さんに感謝しながら歩を進めた。
やがて牧棚もなくなり、人工物は一切ない世界へと踏み込んだ。天然の名園の出合である。辺りは地塘が幾つか点在する広々とした湿草地で、花はその咲いている環境の中で観るもので、汗を流して出合うからこそ、高根の花に感謝する。ミズバショウは満開の時期を逸したが群落は見事なものだ。
人の気配を感じない静かな湿原を歩き廻り、薄雲が陽を閉ざした沢の畔に濃いピンクのハクサンチドリや淡いピンクのクリンソウ・白いカラマツソウが迎えてくれた。
また、見上げれば純白のヤチダモ、湿原の最奥にはハクサンシャクナゲが運よく咲き誇っていた。
先の草原には古びた切り株がクマの姿と錯覚して驚いたりしながら、充分に堪能した一日も終わりを告げ、帰途の人となった。
※明日は、物見山を投稿予定です。お楽しみに!
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